グリニヤール反応とは|地球にやさしい化学品を研究開発しています。グリニヤール反応の日東化成。

グリニヤール反応とは?

1. はじめに

グリニヤール反応とはグリニヤール反応剤を用いた種々の反応を総称して呼ばれる反応である。
グリニヤール反応剤とは、1900年にフランスの化学者Françoit Auguste Victor Grignardが、有機ハロゲン化物がエーテル溶媒中でマグネシウムと反応し有機マグネシウム化合物を形成し(eq. 1)、これがケトン、アルデヒドと反応しアルコールが生成することを見出し、この有機マグネシウム化合物を彼の名をとって名づけられた。

eq. 1

その後、ケトンやアルデヒドだけでなくエステル、アミド、酸塩化物、二酸化炭素、ニトリル、アルキルハライド、金属ハライド等と反応が広く用いられており、現在でも新反応が研究されている。

グリニヤール反応

グリニヤール反応剤は各種の化合物に対して反応性が著しく高いにもかかわらず、他の有機金属反応剤の有機リチウムや有機ナトリウムのように発火性が小さく、取り扱いが容易である。
しかし、グリニヤール反応剤の合成反応は、開始までの誘導期があるため反応が開始すると発熱が非常に激しく、大規模に工業生産する場合、その発熱の制御に注意が必要である。グリニヤール反応剤は、その合成時の発熱制御の困難さにもかかわらず、反応性の良さと取り扱いの容易さのために研究室レベル及び工業的にも各種化合物の製造に利用されている。

2. グリニヤール反応剤の合成と性質

グリニヤール反応剤は一般的にはeq. 1に示したように不活性ガス雰囲気下で、原料の有機ハロゲン化物と金属マグネシウムとを主としてエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)溶媒中で反応させることにより合成される。(eq. 1)

eq. 1
●グリニヤール反応剤の一般的性質
  • ・ グリニヤール反応剤そのものは無色の固体であるが、合成した反応液は一般的には灰白色~黒灰色の溶液である。
  • ・ 空気中の酸素や水分と反応しやすく、合成時または貯蔵時は不活性ガス(窒素またはアルゴン)で置換する必要がある。
  • ・ 上記eq. 1における有機ハロゲン化物のマグネシウムに対する反応性はRI>RBr>RClである。
  • ・ グリニヤール反応剤は脂肪族及び脂環式エーテル、ジオキサンなどに溶けやすく、これらの付加体を生成する。
  • ・ グリニヤール反応剤は水、アルコール、アミン及びアセチレン等の活性水素を有する化合物、ハロゲン及びカルボニル化合物との反応性が高い。
  • ・ 反応の開始剤として、少量のヨウ素、ヨウ化メチル、あるいは1,2-ジブロモエタンを使用することがある。

3. グリニヤール反応剤を用いる反応

1. グリニヤール反応剤を用いる求核付加反応

グリニヤール反応剤はさまざまな求電子化合物と反応する。
その中でも最も代表的な反応はアルデヒド及びケトンなど炭素-酸素二重結合への付加反応による2級及び3級アルコールの合成である(eq. 2~3)
酸クロリド、カルボン酸、酸無水物、エステルと過剰のグリニヤール反応剤との反応では2つアルキル化された3級アルコールが生成する(eq. 4)

eq. 2 eq. 3 eq. 4

ニトリルの場合はこれらのカルボニル化合物より反応性が低いため、非対称ケトンの合成に古くから使われている(eq. 5)

eq. 5

アルデヒドとしてホルムアルデヒドを用いると炭素数が1つ多い1級アルコールが、エチレンオキサイドを用いれば炭素数が2つ多い一級アルコールが得られる(eq. 6)

eq. 6

二酸化炭素との反応では炭素数が1つ多いカルボン酸が得られる(eq. 7)

eq. 7
2. グリニヤール反応剤を用いる求核置換反応

グリニヤール反応剤はハロゲン化物等に対する反応性は有機リチウム試薬に比べて低いため合成反応としてはあまり用いられないが、遷移金属化合物を用いると触媒作用によって、カップリング生成物を収率良く得ることができる(eq. 8)

このグリニヤール反応剤とハロゲン化物との遷移金属触媒を用いるクロスカップリング反応は1970年代に入ってから広範囲の研究がなされ、Fe、Co、Ni、Pd、Cu、Agなどの遷移金属錯体に触媒作用が見出されている。遷移金属触媒を用いるケトン合成の例も知られている(eq. 9~10)

eq. 8 eq. 9 eq. 10

アルキンの水素は酸性度が大きく、グリニヤール反応剤と反応しアルキニルマグネシウムハライドを生成する(eq. 11)

eq. 11

グリニヤール反応剤と金属ハライドと反応させてアルキル金属化合物を合成することができる。この反応を利用して、工業的に有機金属化合物の製造が行われている(eq. 12)

eq. 12

4. グリニヤール反応剤の工業的利用

グリニヤール反応剤を製造する場合、原料及び溶媒の脱水乾燥、反応熱の除熱をはじめ多くの工業的技術蓄積により工業的製造法として有機金属化合物(有機錫、有機ケイ素、有機ホウ素化合物等)、医薬、農薬原体及び中間体の製造法として採用されている。

有機金属化合物

グリニヤール反応剤は工業的には有機金属化合物の製造に多く利用されている。金属、半金属を含めて工業的に利用されている金属種での製造例及び用途例を以下にまとめた。

(1) 有機錫化合物

グリニヤール反応剤と四塩化錫との反応で各種有機錫化合物が得られる。

有機錫化合物

有機錫化合物は塩化ビニル樹脂の安定剤、ウレタン硬化触媒、シリコーン樹脂硬化触媒などの用途に用いられている。

(2) 有機ケイ素化合物

グリニヤール反応剤と原料のケイ素化合物の種類とをうまく組み合わせることによって種々の対称型及び非対称型のジ、トリ、テトラ有機ケイ素化合物が製造できる(eq. 13~15)

eq. 13 eq. 14 eq. 15

これら有機ケイ素化合物は、有機合成の保護基、オレフィンの重合用メタロセン触媒の原料、医薬合成中間体として利用されている。

(3) 有機リン化合物

グリニヤール反応剤を用いて製造され、工業的に有用な有機リン化合物にはホスフィン化合物が挙げられる。
ホスフィン化合物はグリニヤール反応剤とリンハロゲン化物とから製造でき(eq. 16)、Wittg反応剤としてビタミンの合成、各種合成樹脂添加剤等に用いられている。

eq. 16

上記R3Pとハロゲン化アルキル(R'X)と反応して得られるホスホニウム塩R3PR'Xは相間移動触媒として有用である。

(4) 有機ホウ素化合物

鈴木-宮浦クロスカップリングで用いられるフェニルボロン酸はグリニヤール反応剤とホウ酸エステルから合成される(eq. 17)

eq. 17
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